フジマ

STORIES Vol.091~095

Vol.091

『質だよ!清水君』

のん太鮨パセーラ店 清水 猛之

あれは去年の秋頃だったと思います。
暇なディナータイムにお一人で来店された、やたらに肌の艶がいい体格のある55歳位の男性でした。
少し玄人風だったのでこちらも少し構えました。

『まぐろ2皿頂戴。』と言われ丁寧に出しました。
1皿平らげるとすぐに「まぐろ3皿頂戴。」
又すぐに「まぐろもう3皿。」またまたすぐに「まぐろ2皿。」
とあっという間に10皿食べられました。

なんとも初めての経験でしたので不思議そうにお客様を見ていると
『清水君は店長?』と言われ、
自分の名札を見ながら『そうです。』と素で答えました。
そこでお客様は・・・
「広島には旨いすし屋が無いから頑張れ」
「ここの160円のまぐろ、他の寿司屋なら500円は取ってる」
「いかとまぐろにはしっかりこだわれ」
「品質を下げず業者を泣かす位の熱意を持てばいつも満席になる」
「まぐろは髪の毛が生えるらしいからまぐろばかり食べる」
など、売上が上がらない事に何となくマンネリ化していた私に激励と喝を長々と話してくださり、
奮い立った記憶があります。

結局小一時間没頭して聞き、旨い寿司を求めて旅している話や、
「東京に行ってもっと勉強して来い!」と強く言われました。
その日は人生の中でもでっかいモノを頂いた気分でした。

その方は月初旬は広島におられ、後半は東京という生活で毎月の始めに必ず来店していただけます。
来られる度に評価は厳しく
「ダメだって!質を下げたら・・・」「もっと業者に値段下げさしんさい!」といつも叱られます。
私的にはあまり変化はないようなネタなんですが、と思いつつも謝っていました。
でも来られる度にポジティブな言葉もくださるので楽しみな一時でした。

先日また御来店下さり、その日は忙しいディナーだったので普通のお客様的な雰囲気で食べられてました。10皿目のまぐろを持っていくと真剣な目で
「清水君、忙しくなってきたね!僕も嬉しいよ。初めて寄らせてもらった時に清水君の姿勢に、私も何かしてあげたいと思ってね。色々うるさい事言ってきたけど本当に忙しくなってよかった。社長も喜んでるだろうね。でも質はこれからも下げるなよ!」
と言われ、レーンの中で泣きそうになるのに耐えながら深々とお礼を言いました。

頑張って働いてくれる社員やスタッフの為にこれからも力を合わせて頑張りたいと思います!
因みにまぐろは一杯食べても髪は増えないようです。(毎月チェック済)

Vol.092

段取り八分、本番二分

さざん亭三次店 正木 良英

少し前の話になりますが、12月の忘年会シーズンでの事です。
この日も、ランチタイムに大人数の予約があり、私はアイドルタイムに下がってきた大量の食器を洗っていました。
すると店長が洗い場にひょっこりと満面の笑みで顔を出し、
『正木~。さっきの天ぷらランチのお客様が、料理がどれもおいしかった!どんな人が作りよるんか見たいわ!っておっしゃったよ。もう帰っちゃったけど・・・。』と言われました。
料理を私一人で作ったので、当然私は嬉しくなり、
『本当ですか?やった!!』
と、“全て自分の力だ!”と言わんばかりに喜んでいました。

しかし少し頭を冷やし、洗い物を眺めて見ることにしました。
すると天ぷらランチには色んなものがつく事に改めて気付きました。
刺身、天ぷら・天つゆ・薬味・御飯・漬物・サラダ・うどん・茶碗蒸し。
これだけの品揃えで、どれも美味しかったというのは、自分の力はあまり関係ないな。
“仕込みの問題だ!”と考えを改めました。
洗い場の片づけも終わったので、厨房を見て回りました。
するとやはり厨房のみんなのこだわりを感じました!

ご飯一つとっても、私が考えつく限りで、
1.イオン水に漬ける、2.洗米、3.水の量、4.着火のタイミング・蒸らしの時間
次にサラダのこだわりとしては、
1.適正な発注、2.適正なスタンバイ量、3.水のさらし加減、4.綺麗な盛り付け、があります。

このうちどれか一つでもおろそかになると当然のことながら美味しい御飯は出来上がりませんし美味しいサラダもできません。
他の料理でもみんなのこだわりを感じ取る事ができました。

先程の私は、みんなの料理に対する努力やこだわりに対しての感謝を忘れて一人で喜んでいました。
段取り八分、本番二分という言葉を聞いた事がありますが、これはまさにこの事だと思いました。
そう考えるとみんなの努力に感謝せずにはいられません。
私もこれまで以上にこだわりを持って仕事に励みます!

Vol.093

最高の結婚記念日

さざん亭モール周南店 岡本 裕子

5月12日夜、クレームがきっかけで仲良くなったある常連の御夫婦がいらっしゃいました。
席に御案内すると
『今日は2人の結婚28周年記念日なのよ。だから今日はいつもよりいいものを食べるのよ。』
と笑顔で言われました。
『おめでとうございます。28年ってすご~い!あと2年で30年じゃないですかぁ。あと2年後にはスイート10ダイヤモンドが3個もらえますね(笑)。何かプレゼントはもらいましたか?』
というと『何にももらってないよ。』と言われました。
私は『旦那様、それは何かあげなきゃだめです。女性はお花1本でもプレゼントされたら嬉しいものなんですよ。』と言うと、旦那様が『給料全部あげてるからいいじゃない。』と言われました。
私が『せっかくの結婚記念日なんだから何かあげなきゃダメです。今日は奥様の味方ですよぉ(笑)』
『うふふ。ありがとう。』そんな会話をしました。

“結婚28周年かぁ”“何かできないかなぁ”と考え、店長に相談して、サービスデザートのプリンにろうそくを立てて持っていくことにしました。
先ほどの御夫婦の会話に、旦那様は奥様になにもプレゼントをあげてないということを聞いたので、じゃあ私からお花をプレゼントしようと思いました。
お店はあいにく暇だったので、店長に話をしてお花を買いに行く許可をもらいました。

お花を買いに行くと、母の日が近かったのでカーネーションがたくさん売っていました。
母の日の思いも込めてお花はカーネーションに決めました。
ちょうどその店に奥様の好きそうなかわいい天使のキャンドルライトの置物があったので、カーネーションの小さな花束と天使のキャンドルライトを買いました。

お食事が済んで、料理についているデザートを持って行くときに、一緒にろうそく付きプリンも持って行きました。
『結婚28周年記念おめでとうございます。』 と言って出しました。
すると奥様が『わぁ!1品ついてるよ。』と喜ばれていました。
出すときにちょっとハプニング!ろうそくが倒れ掛かってしまい、あわてて必死に直そうとすると、御夫婦が
『やけどするからいいよ、そのままで。ありがとう。』と言われました。
そして旦那様が『すごく嬉しいよ。ありがとう!記念に写メ撮ろうっと!』といって写メを撮っていました。

遠くからこっそり見ていたのですが、二人でろうそくの火をふぅっと消されたときのにっこりとした幸せそうな笑顔・・・、ろうそくが倒れるちょっとハプニングがあったけど、やってよかったなぁ。

帰り際、レジで私がカーネーションと天使の置物を渡すと、奥様が
『わぁ!こんなにもらっていいの!ありがとう。28年いろいろあったけど、おかげで今日は最高の結婚記念日になりました。本当にありがとうございました。』と言われました。
旦那様に
『私は奥様にプレゼントあげたんだから旦那様も私よりいいものを奥様にプレゼントしてくださいネ!』
『いやぁ、困ったなぁ・・・』
店長が『また来年も結婚記念日のお祝いうちの店でやってくださいね。』と言うと
『また来年も来ます。』と笑顔で言われました。
仕事中なのに花を買いに行かせてくれた店長に感謝です。
そして嬉しいことにお客様からこんなメッセージをいただきました。

旦那様:ありがとうございました。最高の記念日になりました。
奥様 :私達の記念日をこんな風に祝っていただきありがとうございました。思いがけない事だったのでとっても感激しました。28年、いろんなことがありましたが、これからも仲良くやっていこうと、ここの場で話し合い、とってもステキな記念日になりました。ありがとうございました。

またひとつ宝物が増えました。

Vol.094

多くの人に支えられている自分

のん太鮨山口店 吉村 功

7月の後半、鰻の押し鮨の販売や盆の準備で何かと多忙な時期の事でした。
店長に着任してから9ヶ月、色々なことの連続で一杯一杯の日々が続き、
そんなこんなでいつの間にか足を痛めてしまい、
我慢して仕事を続けているうちに、まともに歩けなくなる程になっていました。

かれこれ10数年もずっと立ち仕事を続けてきた私には、まさに致命的とも言える事態で、
何とか人数だけは集めて有給を取るはめにまでなりました。
それからは足を引きずりながら病院へ行き、色々と検査を受ける日々が続きました。

そんな時一本の電話が・・・。
それは毎年恒例の鰻押し鮨の注文をする親からでした。
「実は今、足が悪くて休んでるんだ。」
すると親から「実家で療養しては?」との誘いに、
「座っても出来る仕事はあるから」と断わりましたが、
それからは親が毎日のように状態を聞きに連絡してくるようになりました。

数日が経ち、多少痛みも和らぎ回復のめどが立った頃、復帰予定を親に告げると、
「お前は幸せ者だ。休ませてくれたみんなに感謝して、そんな部下達を大切にしてあげなさい。」
その声は、心なしか泣きながら震えているように感じました。

店長になってから、人手が足りない、しんどいなどと実家に帰るたびに愚痴をもらしてた自分。
そんな状況を知っているからこそ、苦しい時を共に過ごしてくれたみんな(仲間)を大切にする気持ち、そして感謝する気持ちを忘れるなと私に伝えたかったのかもしれません。

思えばこの有給中に、私の変わりに一日の仕込みをたった一人で全部やってくれたTさん、
握り場に立ってくれたT君とS君、不安の中、留守を任された手嶋副長と脇本さん、
朝早くから来て鰻押し鮨の製造をしてくれたMさんと清水MG、
電話で随分心配してくれた本社の石田さん、
一緒に花火を見に行こうと約束してたのに行けなくなってしまい
それでも愚痴一つもらさず自分の身の周りの世話をしてくれた彼女・・・。

気が付くと私は多くの人に助けられ、支えられて生きています。
この度の一件でそれを再認識できた気がします。 
自分を支えてくれているみんなに感謝。
そして、そのことを教えてくれて一番心配をかけてしまった親に、もっと感謝です!!

Vol.095

もう店に行くつもりないから

さざん亭モール周南店 岡本 裕子

ずっと前、料理を40分待たされたというクレームがモール周南店にあったのを覚えていらっしゃいますか?
そのお客様は料理があと3歩で届くという位置で、すくっと立ち上がり「もう二度と来るか!」と言って帰られました。
その後さざん亭柳井で食事をされて、モール店のクレームを言われて帰ったそうですが、柳井店の皆様、モール店のクレームなのにご迷惑おかけしました。

そのお客様は一人で来られる常連様で、毎回会計のときに
「おいしかった。やっぱりさざん亭はおいしい!」と言って帰られるお客様でした。
先日メニューが変わった告知&10%割引券付きポスターを店外で配っていると、そのお客様がモールのゲームセンターにいらっしゃいました。

最初知らぬ顔をしようと思いましたが、このお客様は「二度と来るか!」とおっしゃったのに、
その後柳井店で食事をされたことを思い出し、
“さざん亭が嫌いになったら柳井店に食べに行くのだろうか?”
“この方はあんなこと言ったけど、本当はさざん亭が好きなんじゃないか?”と思ったのです。

“一か八かもう一度謝りたい!”
“また食べに来てもらいたい!”と思ったので、勇気を出して声をかけてみました。
「あの、ずっと前さざん亭に来られた方ですよね?」「・・・。」
お客様は突然のことで驚いているようでした。
あっけにとられたのか5秒後くらいに小さな声で「そうですけど。」と言われました。
私は「あの時は本当に申し訳ございませんでした。
不愉快な思いをさせてしまってすみませんでした。」と謝ると、
お客様は「もう店にいくつもりないから・・・。」と冷たく言われ立ち去られました。
私はこうなることは想像していましたが「そうですか。」としか言えず、とてもショックを受けました。

その日お風呂の中で
“本当にあのお客様はもう二度とさざん亭に来ないかも知れない。”そう思うと悲しくなりました。
そしてさっき言われた「もう店に行くつもりないから・・・。」
という言葉がぐるぐる頭の中を回り落ち込みました。

次の日も仕事だったのでくよくよしているわけにはいきません。
今日も「チラシをバンバン配るぞ~!行ってきま~す。」と店の外を歩いていると
「あのう、昨日はすみません。」
なんと昨日のお客様が私に声をかけてこられたのです。
私は驚きました。
「俺、おなかすくとイライラしちゃうんだよね。この前は俺のわがままであんなこと言ってごめん。」
と謝られました。

私もおじぎ45度で
「いえ、こちらこそ料理が遅くなってすみませんでした。私達の力不足です。不愉快な思いをさせてしまって本当に申し訳ありませんでした。」
「いやいや、こちらこそごめん。」お互いしばらく謝りっぱなしでした。
「あのう、このチラシに10%割引券がついていますので、良かったらこれを持って食べに来てください。いつでもお待ちしております!」と言うと、
「ありがとう。本当にごめんね。」「いえいえ、こちらこそすみませんでした。」
最後の最後まで謝りっぱなしでしたが、お客様と仲直りできてよかったです。
勇気を出してぶつかってみてよかったです。